※ この記事は、現役で訪問看護の現場に立ち、スタッフの採用・教育にも携わる立場から書いています(→ 運営者情報)。
訪問看護は、利用者さんの「暮らしの場」に入っていく仕事。だからこそ、利用者さん・ご家族との関係づくりが、仕事の質を大きく左右します。「クレームが怖い」「距離感が難しそう」——そんな不安に、採用・教育する側の立場から本音で答えます。
良い関係の土台は「役割と線引きの説明」から
良い関係は、最初の説明で9割決まると言ってもいいくらいです。まず、私たちがどういう役割で、どういう目的で関わるのかを、きちんと説明します。制度としての訪問看護、社会での立ち位置、そして「訪問でできること・できないこと」——これを最初に伝えておくことで、お互いに線引きしやすい土台ができます。
そのうえで、「どうしてもお願いしたい」という要望が出てきたら、それを個人ではなく事業所全体の問題として捉え、どこまでやるか・できるかを決めていく。この体制がベースにあると、現場のスタッフが無理な要求を一人で抱え込まずに済みます。
関わりの判断軸——「ペプロウの人間関係論」
個人としての関わり方には、私が軸にしている理論があります。看護理論家ヒルデガード・ペプロウの「人間関係の看護論」です。ざっくり言うと、看護師と患者さんの関係は、次の段階を経て育っていく、という考え方です。
- 方向づけ:見知らぬ者同士として出会い、健康問題の解決に向けて一緒に歩み始める
- 同一化:患者さんが「この人なら」と反応するようになり、看護師も相手を理解していく
- 開拓利用:患者さんがサービスを最大限に活用し、自信をもって問題に対処できるようになる
- 問題解決:ニードが満たされ、患者さんが看護師から自立していく
そして、この関係のなかで看護師は、場面に応じて「未知の人/代理人/教育者/情報提供者/カウンセラー/リーダーシップ」といった役割を使い分けていく、とされています(参考:ヒルデガード・E.ペプロウ『人間関係の看護論』医学書院)。
難しく聞こえるかもしれませんが、現場で本当に効きます。「今、自分はこの患者さんとどの段階にいて、どの役割を取るべきか」を理解して意図的に関わると、患者さんからのNGを大幅に回避できますし、誰に対しても適切な距離感で関われるようになります。これは看護に限らず、人間関係の真理だと思っています。スタッフにも、そして患者さん側にもこうした理解があると、お互いにより良い関係が築けます。
よくあるクレームと、その正体
実際に現場でよくあるクレームを挙げます。
- 最初に聞いていた話と違う
- いつもこの時間に来るはずなのに来ない
- 嫌な看護師だから外してほしい・来ないでほしい
- 挨拶しない、怒られる、身なりが汚い・臭いから来ないでほしい
- 注射(点滴や採血)が下手だから変えてほしい
- ずっと自分のことばかり話して疲れるから変えてほしい
看護技術(手技が下手、ケアが雑)が理由のこともありますが、実は大半は「社会人としてのマナー」の問題です。礼節、接遇、身なり——ここでつまずいているケースがほとんど。技術より先に、まず人として信頼されることが大事なんです。この視点は訪問看護に向いてる人・向いてない人にも通じます。
クレーム・NGが出たときの対応
対応の流れは、こうです。
- まず、該当スタッフに指摘し、改善してもらう
- NGが出てしまった場合は、管理者として「もう一度訪問させてもらえないか、チャンスをいただけないか」と患者さんに掛け合う
- 患者さんの要求が過度な場合は、指導や説得をして介入を継続させてもらうこともある
- ただし、社会通念上あまりにひどい場合は、不本意ながらサービス提供をお断りすることもある
スタッフを守ることと、利用者さんに誠実であること。その両方のバランスを取るのが、管理者の役割です。
家族と近くなりすぎる「距離感」問題
訪問看護は一人での訪問がほとんどなので、自分の関わり方を俯瞰して評価する機会がありません。自分で気づけるスタッフならいいのですが、みんながそうとは限らない。だから、患者さんからのフィードバックで初めて「距離が近すぎた」と発覚することが大半です。
そうなったときは、先ほどの人間関係論を軸に、自分の関わりがどうだったか、役割として何をすべきかを再認識してもらう関わりをします。それでも改善が見えない場合は、その患者さん・家族との接点を意図的に減らす。他のスタッフとローテーションを組み、該当スタッフの訪問回数を一時的に減らして距離を保ちます。また、管理者や先輩看護師が同行して、いい意味での緊張感を維持することもあります。距離感の全体的な話は訪問看護の人間関係もどうぞ。
認知症の方・難しい家族——抱え込まず「みんなで」
ここは正直かなり難しく、気づけない管理者もいると思います。でも、一番大事なのはシンプルで——自分のステーションだけで抱え込まず、周囲の関係機関を巻き込んで、みんなで考えることです。
対応するにも、関係機関が”一枚岩”になっていないと、自分のステーションだけが苦労したり、場合によっては悪者になってしまう可能性もあります。困難事例は、対応の方針も含めて、関係者みんなで足並みをそろえていくのが鉄則です。
板挟み(本人 vs 家族/家族間の対立)への向き合い方
板挟みは、訪問看護でよくある悩みです。向き合い方の軸を整理します。
大前提として、サービスの対象者は「本人」です。まず本人にとって一番いい方法を考えます。看護師は利用者さんの”代弁者”でもある。患者さんが何に苦しみ、何を伝えたいのか——それを一番理解していなければならない存在だと思っています。そのうえで、ご家族がどうしたいかを聞いていきます。
一方で、家族間の対立には入り込みません。「それは私たちが考える問題ではないので、ご家族同士で話し合って決めてください」と、はっきり線引きすべきです。先方は期待してくるかもしれませんが、毅然と振る舞いましょう。「困った、どうにかしてほしい」と言われたら、専門機関を紹介したり、相談窓口を案内したりして、解決の糸口を提供します。それでも難しい場合は、会社と個人の問題に発展する可能性もあるので、社内で共有し、会社としてどう対応するか判断していく。一人で背負わないことが大切です。
まとめ
- 良い関係の土台は、最初に「役割・できること・できないこと」を説明すること
- ペプロウの人間関係論を軸に、段階と役割を意識するとNGを回避できる
- クレームの大半は技術より「マナー」。礼節・接遇・身なりが土台
- 距離が近すぎたら、ローテーションや同行で意図的に調整する
- 困難事例・認知症は抱え込まず、関係機関を巻き込んで足並みをそろえる
- 板挟みは「本人が対象」を軸に。家族間の対立には毅然と線引きを
利用者さん・家族との関わりは、訪問看護の難しさであり、面白さでもあります。理論という軸と、抱え込まないチーム対応。この2つがあれば、クレームは怖くありません。そして、こうした関わりがしっかりしている職場を選ぶことも大切です(→ 訪問看護ステーションの選び方)。

コメント